T わたしたちをとりまく情勢
1.内外情勢の特徴
(1)アメリカの世界戦略と日本
6月29日に行われた「日米首脳会談」は、これまでの異常なまでのアメリカいいなり政治を“集大成”した形であらわれました。
日米首脳間では、「新世紀の日米同盟」と題する「共同文書」がかわされ、「世界の中の日米同盟」を確認するとともに、「21世紀の地球的規模での協力のための新しい日米同盟」が宣言されました。これは、1996年の「日米共同宣言」で、「極東」から「アジア太平洋」に対象が拡大された日米の海外での軍事的共同態勢を、文字どおり「世界」へと拡大するものにほかなりません。日米が、世界における共通の戦略目標をもち、米軍と自衛隊の軍事一体化をはかり、基地体制の抜本的強化をはかる、これが「新世紀の日米同盟」の名で進められている内容です。
第2期ブッシュ政権の2年目にあたる2006年の冒頭から、米国政府の外交軍事戦略について、重要声明・重要文書が相次いで公表されました。1月の大統領一般教書演説、2月の国防総省「4年ごとの国防計画見直し」、3月の「2006年国家安全保障戦略」などです。ここでは、二つのことが強調されています。一つは、米国は「長い戦争」を戦っている、その最中にあるという「世界認識」です。もう一つは、「同盟国の協力なしには、この戦争に勝てない」ということです。
アメリカは、イラクに不当な侵略を行い、深刻な打撃を受けています。いつ果てるとも知れない戦争の泥沼化に苦しんでおり、そのもとで「敵を迅速に打ち負かす」という従来の言葉にかわって「長い戦争」という言葉が使われはじめました。「長い戦争」を戦い、勝利するには、米国一国の力では足りない。この戦争を文字どおり一体になって戦う同盟国が必要だ。こういう世界戦略のなかで、「世界の中の日米同盟」が宣言されたことは、日本と世界の前途にとってきわめて重大な危険をもたらすものです。そもそも憲法9条という「恒久平和主義」の憲法をもつ国が、「長い戦争」、いわば「恒久戦争」を宣言する米国とともに、戦争への道にのめりこむ、こんなことは決して許されません。
世界的には、泥沼に嵌り込んでイラクから撤退できないでいるアメリカ、紛争の長期化が懸念されイスラエルの占領が長引いているレバノン、また、不当なミサイル発射を行った北朝鮮、自立を求め地域紛争が激化しているラテンアメリカや中東・アジアなど、紛争の火種と戦争は拡大しています。景気低迷が明らかになりつつあるアメリカは、その打開を狙って各地で締め付けや介入を企て、いつ戦争が起っても不思議ではない状態が続いています。私たちは無法な戦争をさせない、巻き込まれない、アメリカと一体となった戦争には加わらないよう、運動を進めていかなければなりません。
(2)国内情勢の特徴
5年間続いた小泉内閣では、格差社会と貧困の広がりが大きな社会問題となりました。
野党だけでなく与党も、この問題への言及を避けられなくなっています。
小泉首相は、「格差は悪いことではない」と開きなおりつつ、「これは改革の途上に生まれた問題であって、景気が回復していけば、いずれ格差問題は解決する」と言っています。
しかし、今起こっていることは、一方で、財界・大企業が三期連続で史上最高の利益をあげ、バブルの時期を上回る空前の富を得ながら、他方、国民の大多数の中では所得が減少し、格差と貧困が深刻な形で広がるという事態です。その根底には、「構造改革」の名の下で行われてきた新自由主義があります。
利潤追求のため企業は、労働者を正規雇用から派遣職員や委託業者に、請け負った業務は孫請けに丸投げをするという、儲かれば何でもありの状態で、モラルもありません。また、残された職員は成果主義賃金制度や未成熟な評価制度で、6割を超える企業が「心の病」を抱える社員が増えていると報道されています。この調査を実施した社会経済生産性本部は、「心の病を減らして行くには、成果主義や目標管理制度の導入で薄れがちな職場の横の繋がりを取り戻し、責任を1人に負わせない環境作りが必要だ」とも指摘しています。
このような状況下においても政府は、日本経団連と米国の圧力から、労働者を自由に解雇したり、賃金引き下げにつなげる労働法制の改悪を2007年の通常国会に提出しようとしています。労働契約法を新設し、時間外労働規定の見直しを中心とした労働基準法の改悪が主な内容です。管理職と同じように時間外労働の規定に縛られない自由な働き方をホワイトカラーにも広げる(ホワイトカラーエグゼンプション)、解雇における金銭解決制度の導入など、いろいろ理屈付けをされたとしても、すべて会社側の都合に合わせた大改悪の内容となっています。私たちは、格差社会の根源をなしている労働と雇用の破壊に立ち向かい、人間らしい労働のルールをつくるために、職場を基礎に、国民的連帯を強め、闘いを前進させなければなりません。
第二は、社会保障改悪に反対し、拡充を求める闘いです。格差と貧困の広がりの中で、国民の生存権を保障する社会保障制度の役割が、あらためて問われています。ところが、「構造改革」路線の下で、国民の暮らしの支えになるべき社会保障が、逆に、国民の暮らしに襲いかかるという事態が起こっています。とくに、わが国の社会保障制度に、二つの反動的変質が起こっていることは見過ごせません。
一つは、低所得者、社会的弱者が、社会保障制度から排除されるという事態が生まれていることです。国保料の滞納に伴う保険証取り上げと資格証明書への置き換え、高い年金保険料を払えず制度から除外されつつある人が1000万人にものぼる事態、餓死者まで出した過酷な生活保護の抑制、障害者福祉でも介護保険でも施設からの冷酷な追い出しがすすめられていることは許せません。
二つには、「官から民へ」の掛け声で、国の公的責任を放棄する流れが、この分野にも押し付けられていることです。医療改悪法に盛り込まれた「混合診療」が本格的に導入されたなら、公的医療保険だけでは必要な医療が保障されず、民間保険に頼らざるをえなくなります。国民の命と健康にかかわる分野まで、日米の医療保険会社・医療大企業がハゲタカのように食い物にしようとしている、このような医療制度改悪に反対する闘いを、地域から作り上げていかなければなりません。
第三は、「逆立ち税制」を改めることです。格差が拡大したら、所得の再分配によってそれを是正するのが税制の役割です。ところが、「庶民には大増税、大企業には減税」という逆立ちした税制によって、格差に追い打ちをかける事態が引き起こされています。
高齢者の中で、急激な増税・負担増への悲鳴、怒りと怨嗟の声が沸騰しています。老年者控除の廃止、公的年金控除の縮小、定率減税の縮小などが、一斉に襲いかかり、税負担が数倍から十数倍となり、それに連動して介護保険料や国民健康保険料などが「雪だるま」式に膨れ上がるという事態が起こっています。これは高齢者が耐えられる限度をはるかに超えた、まさに生存権を脅かす負担増です。実施されている高齢者への大増税と負担増をただちに中止し、その見直しをはかることを求めます。また今後、実施予定の負担増計画の凍結、見直しを求めていきます。
小泉内閣で最後の仕事となった「骨太の方針」は、「歳出入の改革」と称して、16.5兆円の「歳出入ギャップ」を、最大限の社会保障や国民サービスの切り捨てによって埋め、足りない部分を消費税など庶民増税でまかなうという方針が盛り込まれました。首相は、「歳出をどんどん切り詰めていけば、『やめて欲しい』という声が出てくる。増税してもいいから必要な施策をやってくれ、という状況になるまで、歳出を徹底的にカットしなければならない」と述べ、国民生活を兵糧攻めで締め上げたあげく消費税増税を行うと言っています。
「逆立ち税制」をただし、空前のもうけをあげている大企業と高額所得者に応分の負担を求めましょう。
格差社会の広がりと表裏一体で噴き出してきたライブドア事件や村上ファンド事件は、「新自由主義」路線がもたらす腐朽性を象徴するものでした。規制緩和万能路線が、マネーゲームを煽り、「株転がし」「会社転がし」で巨額の利益を得ようという、いびつな「マネー資本主義」「カジノ資本主義」を広げてしまいました。国民から吸い上げた金を、経済のまともな発展ではなく、投機に注ぎ込む。これを見て英エコノミスト誌は、日本の資本主義は「驚くばかりに規制がない」と指摘しましたが、モラルもルールもない資本主義への堕落は、目を覆うばかりです。
この問題で許せないのは、「新自由主義」の経済政策を推進してきた当事者が、このマネーゲームに深く関与し、そこから莫大な利益を得てきたことです。小泉内閣の「規制改革・民間開放推進会議」の議長であり、10年間にわたって規制緩和万能論の旗振りを続けてきたオリックスの宮内会長は、村上ファンドを実質的に創設し、そこから巨額の利益を得ていました。日銀総裁として、ゼロ金利政策、量的緩和政策を続け、庶民から巨額の利子所得を奪いながら、マネーゲーム経済の金融的基盤をつくりだし、村上ファンドの広告塔となってきた福井氏もまた、ぬれ手で粟の利益を得ていました。「経済財政諮問会議」の「民間議員」として、「新自由主義」経済路線の陣頭指揮を取ってきたウシオ電機の牛尾会長も、村上ファンドに巨額の投資をしていました。自ら規制緩和の仕掛けをつくり、その仕掛けの中で、私腹を肥やす。首相は、「族議員をなくした」と言いますが、この小泉政治がつくりだしたものは、最悪の財界直結の利権政治でした。 この間、状況の大きな様変わりも起こって来ています。かつては「官から民」「小さな政府」論が横行し、歯向かうものは抵抗勢力というレッテルが張られましたが、この間の、耐震強度偽装事件、ライブドア、村上ファンドと立て続けに暴露されたことで、国民の怒りは大きく広がって来ています。
(3)憲法をめぐる情勢
@昨年9月の総選挙において、与党が国会で改憲発議に必要な2/3の議席をはるかに超える勢力となりました。これまで、執拗に繰り返されてきた改憲の動きに拍車がかかっています。とりわけ、昨年11月、自民党が結党50周年にあわせて「新憲法草案」を発表し、これに対して民主党も「憲法提言」を示すなど、昨年末から改憲論議を作り出す動きが加速しています。
自民党「新憲法草案」では、憲法がこれまで基本的人権の尊重など、国民の自由と権利を守るための「政府への命令書」であったものを、国の認める範囲内での国民の自由と権利の保障へ変質させるものとなっています。さらに、憲法第9条第2項の「戦力不保持」と「交戦権の否認」を削除し、新たに自衛軍(戦力)を持ち、その国外での活動を明記するに至っています。これまでイラクへの自衛隊派遣など「憲法第9条第2項」が歯止めとなって海外での武力行使は出来ませんでしたが、これへの道を開こうとすることが、「草案」の最大の狙いとなっています。その意味では、民主党案も同様の考え方が盛り込まれており、改憲の動きはこの国を「戦争する国」、「アメリカと一体で、世界のどこでも武力行使ができる国」を目指すものと言えます。
Aこのような状況で迎えた第164通常国会は、会期末を間近に控えた5月26日、与党は憲法改定の手続きとして整備が必要だとして、「国民投票法案」を国会に提出しました。出された法案は、改憲をより確実に可能とするための「仕組み」が組み込まれています。「憲法9条改正」が改憲の最大の狙いであり、アメリカとの関係からもその実現を急ぎたいと考えているからこそ、内容として「違憲性」を持った法案がこの時期に提出された訳です。
こうした、「戦争する国」づくりのための改憲策動にあわせるかのように、内心の自由の侵害や教育への国家の不当な介入を可能にする「教育基本法改悪案」や、思想を罰することを目的とする憲法違反の「共謀罪」法案、「防衛省」昇格法案がその後提出され、継続審議となりました。また、3兆円規模の費用負担を約束したとも言われている「米軍基地再編強化」の動きも改憲をめぐる情勢として注視しておかなければなりません。
B秋の臨時国会に継続審議とされた教育基本法改悪案、国民投票法案、共謀罪新設法案などの廃案を目指す取り組みは重要です。「二度とあの悲惨な戦争を繰り返してはならない、として日本国憲法はつくられました。この憲法のかげる理想の実現をめざして作られた教育基本法には、子ども一人ひとりを分け隔てなく人間として大切に育てる教育の方針が記載されています。この憲法と同じく戦後政治の礎となってきた教育基本法を守り発展させる運動を強めていくことが重要です。
C靖国参拝問題については、個人の内心の問題だからいいのではないか?合祀されているからダメだ、などいろいろと論じられています。しかし、参拝するということは、境内にある「遊就館」に象徴されているような、あの戦争は正しかった、という戦争史観を肯定するものです。戦争で犠牲になった方をお参りするのだからという単純な議論に陥らず、有事法制の制定、PKO活動としての海外派兵、日の丸、君が代に対する教職員への処分、教育現場における愛国心の強要、継続審議となった国民投票法案や教育基本法改悪案など、一連の動きの中でとらえることが重要です。
そういう点では、秋の臨時国会は新内閣の信任を問うに止まらず、戦後政治の総括が求められる国会になると思われます。
D33年ぶりに国家公務員法違反で起訴された「堀越裁判」は6月29日敗訴しました。国民的には何故休日にビラ配布をしてはいけないのか?国民一人ひとりに認められている権利がなぜ公務員には認められていないのか?など、あらためて考えさせられる不当弾圧事件でした。判決内容も罰金10万円、執行猶予2年と言うものです。執行猶予期間中に新たな事件を起こさなければ、罰金も支払わなくて済むという不可解さです。公務員といえども思想信条の自由、表現の自由、労働基本権は存在しています。このことに確信を持って運動を進めていかなければなりません。堀越さんは判決後、直ちに控訴しました。
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2.都区政をめぐる情勢
(1)都政をめぐる情勢
石原都政の6年間は、財政がきびしいといって切実な都民施策に大ナタを振って削り取り、反面、大企業優先の都市再生事業に予算を注ぎ込んできました。2006年度の予算は、12兆4322億円で前年対比1077億円減です。しかし、景気回復の影響で都税収入は大幅に伸び前年対比2520億円増加しています。この増加分を高齢者介護や子供の医療費助成など都民生活に密接な施策に振り分けることが可能です。
石原都政は、財政再建推進プラン、都庁アクションプランにより、生活弱者によりきびしく、さらに職員の大幅な削減等強行してきました。一方、2016年のオリンピックを東京に招致するオリンピック招致構想に基づく都市再生事業、三環状道路・首都高速等主要道路建設、東京港の新たな機能強化、羽田空港の再拡張・東京駅や品川駅周辺の再開発やIT産業など育成の産業支援等に重点的に計上しています。
石原知事は、都議会でオリンピック開催は既設の施設を活用することを基本とするので、おおむね運営費3000億円、施設関連費5000億円かかると公表しました。しかし、選手村予定地やメディヤセンター予定地は別会計になっているので実際には軽く1兆円を超えることが予想されています。
都民生活に密接な「教育と文化」・「生活環境」・「労働と経済」の分野にはあいかわらず低く抑えられています。しかも、福祉関連では老人医療費助成の事実上の終了、さらに保育所等への都加算補助廃止を主張しています。また中小企業対策費は11年連続で削減されるなど都民の切実な要求に背を向け、財界、大手ゼネコン等大企業優先の施策が予算に反映しています。
石原都知事の個人的な「思いつき」から始まった新東京オリンピックを起爆剤として、都市再生と称した大規模開発(まち破壊)を、さらに推進しようとする東京都のこうした姿勢を改めさせる取り組みが今大変重要です。
一方、教育基本法の改悪の動きと相まって、いま学校教育現場の民主主義が危機的な状況となっています。教職員会議における学校長の権限の絶対化や日の丸・君が代の押しつけなど、都教育委員会は教師や生徒の自由や思想、信条をまったく無視した教育行政をおこなっています。また、日の丸の掲揚や君が代斎唱に反対する人への処分をおこない、被処分者に対し、都教委は「服務事故再発防止研修」と称して反省を迫っています。こうした教育行政は首長である石原都政の右翼的性格の発露といえます。
こうした石原都政の姿勢を改めさせるためにも、来年の統一地方選挙における民主勢力の勝利は重要不可欠なことです。
(2)区政をめぐる情勢
二期目の石川区政は「改定行革大綱」に基づき福祉破壊を積極的に実行しています。
学校、保育園給食の民間委託の完成、さらに本来基礎的自治体の役割である保育園、児童館、学童クラブ等の運営を民営化や民間委譲を進めて経営を営利企業に肩代わりさせようとしています。
これは小泉構造改革路線の地方版であり、改革の名のもとで戦後築き上げてきた区民福祉を根底から崩すものといえます。
その底流にあるものは際限のない区政の安上がり経営であり区民や児童の人権を無視した区政と言わざるを得ません。
埼玉県ふじみ野市の市営プールでおきた痛ましい事故は、プールの管理業務を民間委託され、さらに委託先企業から丸投げ再委託されていました。実際に従事していたのは責任のないアルバイト要員であり利用者の安全は最初から考慮されず行き過ぎた経費節減の結果おきた事故といえます。
千代田区は、平成17年度から平成21年度までの主な事業の5カ年計画である「千代田区第三次長期総合計画・改定推進プログラム」に基づき、児童館、学童クラブの民営化を進めさらに保育園の民営化も検討されています。こうした民営化は、憲法や地方自治法によって規定された自治体本来の役割に反するのです。
いま千代田区政の「構造改革」路線に反対し、区政の民主化の取り組みが最も重要です。
一方大手ゼネコンの経済活動を支援するため、「都市再生」政策を積極的に受け入れ、都市計画を大幅に変更して経団連を中心とした財界の要求を受け入れた大手町地区の再開発計画の推進や丸の内地区のマンハッタン計画推進等に、人も予算も積極的につぎ込んでいます。このように千代田区のまちづくり行政は、三菱地所を初めとした大手ディベロッパーのパートナーとしてまち破壊の役割を積極的に果たしているといえます。
現在、神田地域を分断する東北縦貫線事業の新たな建設計画が大きな問題になっています。この計画は、東北線、高崎線、常磐線と東海道線の直通運転を実現させようとするJR東日本の計画です。高さ24m、延長600mにわたって壁が神田地域を分断するものです。この計画は、東京都心への一極集中をこれまで以上に進めるものであり神田地域の景観や環境を大き損なうものといわざるを得ません。
これまでも、丸の内や東京駅の再開発問題で東京都やJRに対して要請行動をとり組んできましたが、千代田区でともに働く私たちは、この問題でも千代田区のローカルセンターとして地域住民と共同した取り組みが求められています。
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