20220.2116
 22千代田春闘共闘講演会

安保法制の下で進む憲法9条の実質改憲(壊憲)と
改憲勢力3分の2超えた状況下での明文改憲の危険性

第1 安保法制の下で進む実質改憲(9条壊憲)
1 敵基地攻撃能力保有
・ 2020年6月、自民党国防部会などで小野寺五典元防衛大臣らがイージス・アショの代替手段として敵基地攻撃能力の保有を主張し、同月安倍首相(当時)も会見において「敵基地攻撃能力を含む安全保障戦略の見直し」に言及した。
・ 後継の菅内閣は同年12月18日、「新たな防衛ミサイルシステムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化」を閣議決定した。
・ 2021年12月6日、臨時国会での岸田首相所信表明演説で、歴代首相としては初めて、敵基地攻撃保有を明言した。
2 2021年4月16日の日米首脳会談と3月16日の日米安全保障協議委員会(2+2)
・ 日米首脳会談の共同声明と日米安全保障協議委員会(2+2)の共同発表文では、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、台頭する中国に軍事的に対抗するために、日本の防衛力の強化、両国の抑止力と対処力の強化、サイバー及び宇宙を含む領域を横断する防衛協力の深化など、日本がアメリカの要求に沿って積極的に加担する立場を明らかにした。
・ 台湾海峡などで米中の軍事衝突が起こった場合、安保法制のうち、重要影響事態で戦闘地域での米軍に対する後方支援や、弾薬の提供、作戦行動中の米海軍や海兵隊航空部隊への弾薬補給や給油等、武器等防護で、米艦船・航空機の護衛、存立危機事態で集団的自衛権行使が可能となり、安保法制を全面的に発動することになる。
3 台湾有事を想定した日米共同作戦計画案の策定
・ 2021年12月24日に報道された「米軍、南西諸島に臨時拠点 台湾有事自衛隊と作戦案」では、有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県(奄美、馬毛島を想定)から南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を確保し(海兵隊の遠征前進基地作戦:EABO)、自衛隊がこれを支援する。
・ この共同作戦計画案では、米軍基地が集中する沖縄を含む南西諸島一帯が戦場となり得るもので、後方支援を行う自衛隊基地も攻撃対象となる。しかし、自衛隊制服組幹部は、「自衛隊に住民を避難させる余力はない。自治体にやってもらうしかない」などとしている。
4 2022年1月7日の日米安全保障協議委員会(2+2)
2022年の2+2の共同発表文は、日米共同作戦計画を策定して、「必要であれば対処する」として、日米が共同で戦うことを宣言している。 ・ 日本は、今年末までの国家安全保障戦略などの改定にあたり「ミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」とし、これについて林芳正外相は会見で、「いわゆる敵基地攻撃能力も含まれる」ことを明言した。
・ 南西諸島の自衛隊基地を含め「日米の施設の共同使用を増加」すると表明し、辺野古の米軍新基地建設が「普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策」、極超音速兵器などへの対処や宇宙領域での能力向上に取り組むため日米共同研究の実施、防衛力の抜本的強化・思いやり予算の増額などを合意した。
5 共同軍事訓練・演習
・ 中国との武力衝突・戦争を念頭に、米軍等との共同軍事訓練が安保法制以降常態化しており、種子島での陸上自衛隊水陸起動団と米海兵隊との上陸演習、オーストリアでの米豪日の上陸訓練、日本と米国、オーストラリア、インド(Quad:クアッド)によるインド洋ベンガル湾で共同訓練が繰り返し行われている。
・ 米国と日本を含む同盟国が、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を旗印に、中国を仮想敵国として行う共同軍事訓練が東シナ海、南シナ海で行われている。また、最近では、NATO加盟国(イギリス、オランダ、ドイツ等)との共同訓練まで行われている。
・ この間の日米共同訓練・演習は、いずれも台湾有事を想定した自衛隊の領域横断作戦(CDO)と米海兵隊のEABO、米陸軍の多領域作戦(MDO)との連携を図るものになっている。
2021年12月24日に閣議決定された2022年度当初予算案で、防衛費(デジタ庁の予算に計上される318億円を含む)は前年度比583億円増の5兆4005億円となり過去最大を更新した。臨時国会で成立した21年度補正予算7738億円と合わせると6兆1744億円で初めて6兆円の大台にのり、対国内総生産(GDP)比で1.09%になる。
※ 自民は、総選挙の公約で対GDP比2%を目指すとした。
第2 明文改憲をめぐる新しい局面
1 衆参で改憲派が3分の2を超える状況 ・ 昨年行われた衆議院総選挙の結果は、自民党が絶対安定多数の議席を獲得する一方で、立憲民主と共産は議席を減らし、自民・公明に維新を加えた改憲推進勢力の議席が3分の2を超えることになった。
・ 国民民主党も、衆院憲法審査会の「与党側」幹事懇談会に参加するなど、改憲に向けて、自民・公明や維新との共同歩調を強めており、参議院でも改憲推進勢力が3分の2を超える状況になっている。 ・ 総選挙後の会見で岸田首相は、「敵基地攻撃能力」など防衛力の強化を図るとともに、「任期中に改憲のメドを付けたい」と言明し、維新の松井代表も、41議席を獲得したことを背景に、「来年参院選と同日に改憲国民投票を」と自民党を挑発した。
・ 自民党は、11月19日「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に名称を改め、国会での議論に加えて、国民との対話によって理解を広め、憲法改正の機運を高める取組みにも力を入れる方針を示した(2月1日から全国各地で開く対話集会の実動部隊となる「タスクフォース(TF)」を始動させ、地方議員らと連携し、週末などに各地で数十〜数百人規模の集会を5月の大型連休までに開催する)。
2 憲法審査会の状況
臨時国会開催中の12月16日に衆議院憲法審査会が開催されたが、参議院予算委員会が行われている最中の開催は異例であった(予算審議中に憲法審査会を開催しないことがこれまでの慣例)。
自民党は「自衛隊の明記」など4項目の改憲案(資料5)をたたき台として議論を進めたいとし、維新は教育無償化、統治機構改革(道州制等)、憲法裁判所の設置の3項目(資料6)、公明は緊急事態での国会の機能の維持や、国会議員の任期延長の議論を進めるべきだとした。また、自民と維新は、憲法審査会の毎週開催(予算審議中の開催も視野に入れている)、改憲項目毎の分科会の設置による並行審議など改憲論議を短期間で強引に進める審議方式を提言し、国民民主もこれに応じるとしており、コロナ禍を口実にした緊急事態条項や教育無償化などの国民に受け容れ易い項目を入口にして改憲論議を進め、最終的に9条改憲に持ち込むことを狙っている。

 
第3 改憲(壊憲)策動にいかに立ち向かうか
1 日米軍事同盟強化・敵基地攻撃能力保有では日本とアジアの平和を作ることはできないこと
・ 中国脅威論と台湾有事論が喧しく論じられ、自衛隊の軍事力強化、日米同盟の抑止力強化に誘導する世論作りが行われている。しかし、日米共同作戦計画に見られるように、台湾有事が起き、米軍が介入した場合には、日本は、米軍の指揮の下で敵基地攻撃を含めて対中軍事作戦に参戦することになり、最前線に立たされる自衛隊員ばかりでなく、国民の生命・財産が危険に晒されることになる。
・ 日本が敵基地攻撃能力を有することは、相手国が日本を攻撃する口実にもなり、双方とも先制攻撃へと傾斜してゆくことになるし、中国に加えてロシアにも軍拡の口実を与えることになり、アジアに安全保障のジレンマと呼ばれる軍拡競争を際限なく呼び込み、却ってアジアの安全を害することになる。
・ 日本が行うべきことは、「敵基地攻撃能力」を保有することでも、アメリカと一体となって中国に武力で対抗することでもなく、憲法の平和主義の理念に基づいて、国際世論をリードして戦争の危険を回避するあらゆる政治的努力をすることである。
2 国会の立憲野党と共闘した運動を大きく広げること
? 憲法審査会を監視し、立憲野党を励ますこと
12月16日に開催された衆議院憲法審査会で、野党筆頭幹事で立憲民主党の奥野総一郎氏は、「憲法を尊重しない与党が改憲を語る資格はない」と批判し、分科会設置は「拙速だ」と否定的な考えを示した。また、(自民党の)「4項目ありきの議論には反対だ。憲法審の理念に反し、国民の分断を生む」とし、CM規制等の国民投票法の見直し議論を優先すべきだとした。
これに対して、自民党は緊急事態条項に絡み、「議員任期の特例は喫緊の課題だ。見解を求めたい」と立憲民主党に要求。公明党は「速やかに議論を行うべきだ」と促し、維新も分科会設置を提案し返答を迫るなど、立憲民主党に対する質問が相次ぎ、包囲網が作られている。
・ 国民投票法附則第4条を先行して審議させること
⇒自民・維新は修正なしで、改憲発議が可能と主張している。>br> ・ 憲法審査会のルールを守らせること
憲法審査会は、他の委員会とは違って、取り扱う対象が国家の基本法である憲法であり、時の多数派でも侵害しえない価値を保障する法規範であることから、多数決による決定よりも、少数政党・会派の意見も平等に取り入れて、国民代表のコンセンサスをとることを重視してきた(中山方式)。
・ 従来、憲法審査会は、慣行として予算審議中は開催せず、参議院の予算委員会での審議が終わった後に開催されてきた。
⇒既に「総がかり」が取組んでいるように、今通常国会で予算審議中に開催しないよう申入れを行う必要がある。
? 改憲の中身を学習し、批判してゆくこと
※ 自民党改憲4項目
・ 自衛隊明記の危険性
「これまでの9条解釈は変わらない」? ・ 緊急事態条項改憲
「緊急事態条項がないから新型コロナの感染拡大を止められない」?
新型コロナウイルス感染拡大には法律で対応すればよく、緊急事態条項(国家緊急権)を創設しなければならない必要性はない。
むしろ、緊急事態条項(国家緊急権)は立憲主義の理念と相容れないものであり、常に権力濫用の危険があり、特に軍事的な非常事態において、この緊急事態条項(国家緊急権)が一旦発動、濫用された場合には,憲法が保障する人権は,広範囲に深刻な侵害を受ける。
※ 維新の改憲案
・ 統治機構改革
「国は、国家としての存立に関わる事務その他の国が本来果たすべき役割を担うものとし、それ以外の事務は自治体が担うことを基本する」(維新の改憲案93条2項)として、地域主権を認めるものと宣伝しているが、逆に「国の専権事項」を憲法的に承認することになり、沖縄県が辺野古新基地建設や南西諸島への自衛隊配備に反対できない法的根拠になる。
・ 教育無償化は法制定・改正等でできる。
※ 国民民主の改憲案
環境権、データ基本権、参議院の合区解消には法制定・改正等でできる。
※ 憲法改正国民投票には総務省の試算で850億円もの費用がかかる
850億円もの税金を使って、憲法改正が必要か冷静に考え、法制定・改正等で行えることは改憲の必要はない。
? 参院選で共闘の力で改憲勢力3分の2を止めよう
・ 改憲阻止の新署名の取り組みと並んで市民の学習運動を分かりやすく、どう伝えるのかについて工夫を
・ 自公政治を変えるには共闘の道以外にない
・ 安倍改憲を阻んできたのは、9条の会や憲法運動と「市民と野党の共闘」の力に確信を持つこと